前回の記事で、特許の独占・排他の力を利用して、ビジネスモデルを意図したとおりに機能させて、自社ビジネスの成功(社会的課題の解決)を目指すことを説明しました。
具体的には、そのために、
- 第三者が同一又は類似するビジネスができないようにすること
を目指して特許取得をしていくことで、自社しか自社ビジネスを提供できない世界を作り出し、自社ビジネスの成功確率を高めていく、という話をしました。また、目指すべき特許取得の範囲として、以下の図を示しました。
今回は、本編からのスピンアウト記事(コラム)として、実際のケーススタディを用いて、どのような考え方・手法を用いて特許取得を目指していけばよいのかということを説明したいと思います。
ケーススタディとして、スケジュール管理のグループウェアを顧客企業に提供しているベンチャー企業α(SaaS型のビジネスモデル)が、このグループウェアの新機能として、
会社内(組織内)で会議をするメンバーを選択すると、このメンバー全員で会議ができる直近の時間帯の候補を自動で複数表示してくれる機能(これが上記図での「自社ビジネスモデルの『魅力的な部分』」)
を開発したという状況を想定して(※1)、上記図を意識しながら、この新機能について特許取得をしていくことを考えてみましょう。
※1・・・私が勝手に考えた具体例で、すでにサービスとして提供されているかもしれません。普段、仕事(事務所内)で使用しているスケジュール管理のグループウェアにこんな機能があればいいなと思っているので、ここで具体例として挙げさせていただきました。どこか具体的なグループウェアを意図したり非難したいわけではないことはご理解、ご了承いただければと思います。また、先行技術の調査等もしておりませんので、上記思いついた内容で特許出願をしても、必ずしも特許を取得できるわけではないこともご了解いただけますと幸いです。
皆さんの中にも、会社の上司の空いている時間帯をグループウェア上で探すのに苦労した経験のある方がいらっしゃるかと思います。特に、複数の上司に参加してもらう多人数の会議の時間帯を調整するのに時間がかかって、ご苦労されたご経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。ベンチャー企業αが開発した上記新機能は、こうした「困りごと(これも立派な社会的課題です)」を解決して、短時間で予定調整を可能にしてくれるものです。
ベンチャー企業αが開発した上記新機能(上記図での「自社ビジネスモデルの『魅力的な部分』」)は、より具体的には
- 会社(組織)のメンバーみんなで使用しているスケジュール管理のグループウェアにサインインする
- このグループウェア上で、会議に参加して欲しいメンバーとして、部長Aさん、課長Bさん、Cさん、Dさん(ご本人)を選択する
- 会議を実施したい期間(例えば、1週間以内に会議を設定したいならば「本日から1週間」)を入力し、会議予定時間(例えば、1時間)を入力する。
- すると、画面上に選択した4名について、入力された「会議を実施したい期間」の中で「会議予定時間以上の共通の空き時間」がある時間帯(スロット)を複数自動表示(例えば、水曜日15~16時、木曜日9:30~11:00、金曜日14~16時と表示)
の4つのステップからなるものです。
さて、「第三者が同一又は類似する機能を有するグループウェアの提供ができないようにしたい」と考え、上記機能を備えたグループウェアの特許を取得しようとする際、どのようなことに気を付けたらよいでしょうか。
まずは、上記図で記載したとおり、上記4つのステップからなる「魅力的な部分」を改変したバリエーションをいくつか考えた方がよいと思います。種々検討した結果、バリエーションとして、
バリエーション1:上記ステップ2の選択について、よく会議をするメンバー(例えば直属の上司)をあらかじめグループウェアの設定画面で「会議グループA」のような形で設定しておくことで、ステップ2の選択作業を簡略化する。
バリエーション2:上記ステップ3の入力をしなくても、ステップ2での選択(会議に参加するメンバーの選択)をすれば、ステップ4の表示をしてくれる。
バリエーション3:上記ステップ3の入力事項(開催を実施したい期間、開示予定時間)をグループウェアの設定画面であらかじめ入力しておくことで、ステップ3をパスできる。
を思いついたとします。この場合、上記新しく開発されたステップ1~4だけではなく、上記バリエーション1~3を含むような特許出願をする必要があります。
その理由は、上記ステップ1~4を必須の要件としてそのまま特許出願してしまうと何が起きるかを想像していただければ理解できるかと思います。
もし、上記ステップ1~4を必須の要件としてそのまま特許出願してしまうと、上記バリエーション1(ステップ2の簡略化)、上記バリエーション2、3(ステップ3をパス)は、この特許出願ひいてはこの特許出願に基づき成立する特許権の権利範囲に含まれないことになります。この場合、同様のSaaS型のビジネスモデルを提供しているコンペティターは、上記バリエーション1~3を選択することで、ベンチャー企業αが取得した特許権を回避して、同様の新機能を搭載したスケジュール管理のグループウェアを提供できてしまいます。つまり、ベンチャー企業αは、特許の独占・排他の力をビジネスの成功に結びつけることができなくなり、過当競争(例えば、宣伝合戦、コスト競争)に陥る結果、ビジネスの成功確率が下がっていきます。
したがって、繰り返しになりますが、ベンチャー企業αは、上記新しく開発されたステップ1~4だけではなく、上記バリエーション1~3を含むような特許出願をする必要があります。
こうした特許出願の請求項の記載方法(表現方法)は種々あるかと思いますが、例えば、以下のような権利範囲を有する請求項を作成することはできます(以下は、あくまで即興で考えた一例で、十分に練ったものではないことをご了承いただけますと幸いです。)
【請求項1】
複数のユーザの予定を登録するスケジュール管理装置であって、
当該複数のユーザから選択された2以上のユーザに関する情報を受信する受信部と、
当該選択された2以上のユーザ関して、各々のユーザの所定期間内に登録されている予定を確認し、当該所定期間中において、前記選択された2以上のユーザの予定が登録されていない時間帯に関する情報を抽出する抽出部と、
当該抽出された前期時間帯に関する情報を送信する送信部と、
を備えることを特徴とするスケジュール管理装置。
もっとも、小職は、上記請求項の案文を作成の際、前回の記事で説明した「侵害発見の容易性」は一応(笑)意識しております。どのあたりで意識しているかについては別の機会に説明させていただきたいと思います。